【第1部】戦略編:「何をやらないか」を決める勇気


サブタイトル:勝負が決まる前に、勝敗は決している

多くの経営者が「戦略」という言葉を日常的に使います。しかし、その多くは「売上目標」であったり、単なる「願望のリスト」であったりするのが実情です。「今年は売上を1.5倍にする」「全方位で顧客満足度を高める」――。これらは戦略ではありません。

戦略の本質とは、「何をやらないか」を決めること、すなわち「捨てる」ことにあります。


1. 戦略なき「全方位外交」の末路

かつて、ある大手家電メーカーは、あらゆる顧客のニーズに応えようと、多機能な製品を次々と市場に投入しました。しかし、結果として製品は複雑化し、コストは増大。どの機能も「中途半端」になり、特定のニーズに特化した新興メーカーに市場を奪われました。

これは「選択」を怠り、リソースを分散させた典型的な失敗例です。経営リソース(ヒト・モノ・カネ・時間)は常に有限です。すべての人に好かれようとすることは、誰にとっても「どうでもいい存在」になることと同じなのです。

2. 「不便さ」が最強の武器になる:サウスウエスト航空の事例

戦略の真髄を語る上で欠かせないのが、米国のサウスウエスト航空です。彼らの戦略は、徹底した「やらないこと」の積み重ねでした。

  • 機内食を出さない(コストと時間の削減)
  • 座席指定を行わない(搭乗時間の短縮)
  • ハブ空港を使わない(地方空港間の直行便のみ)
  • 機体をボーイング737のみに統一する(整備・教育コストの最小化)

一見すると「不便」に思えるこれらの選択こそが、他社には真似できない「圧倒的な低価格」と「高い運航効率」を生み出しました。競合他社が彼らを模倣しようとしても、既存の豪華なサービス(機内食や座席指定)を「捨てられない」ため、中途半端な真似しかできませんでした。

「独自のポジション」とは、競合が「やりたくても、今さら捨てられなくてできない」領域に作られるものなのです。

3. 「近所」を極めて大手から顧客を奪う:地域密着型の戦略

もう一つの事例として、地方で生き残る「町の電器店」の戦略を見てみましょう。

大手家電量販店やネット通販が普及した現代、価格や品揃えで戦えば、小さな店に勝ち目はありません。そこで、ある成功している電器店は、徹底的な「絞り込み」を行いました。

彼らが捨てたのは、若年層の新規客」と「価格競争」です。代わりに選んだのは、「近隣の独居高齢者」への徹底した密着でした。

  • 電球一個の交換から即日駆けつける(効率は悪いが、圧倒的な信頼を得る)
  • 家電の修理だけでなく、家具の移動や庭掃除まで手伝う(「便利屋」化することで生活の悩みすべてを把握する)
  • あえて値引きをしない(その代わり、24時間365日の安心を売る)

この店にとっての戦略は、「家電を売ること」ではなく「高齢者の不安を取り除くこと」です。大手量販店が効率を求めて「店舗への来店」を待っている間に、彼らは顧客の家の中で茶を飲み、次の買い替え需要を誰よりも早く掴んでいます。

4. 戦略とは「戦いを略(はぶ)く」こと

「戦略」という漢字を分解すると、「戦いを略す」と書きます。

泥沼の価格競争や、消耗するシェア争いに巻き込まれているとしたら、それは戦略が機能していない証拠です。本当の戦略がある状態とは、戦う前にすでに勝敗が決している状態、すなわち「戦わずして勝てる土俵」に立っている状態を指します。

自社が最も力を発揮でき、かつ競合が追いかけてこない(あるいは追いかけたくない)場所はどこか。それを特定することが、経営者の最も重要な仕事です。


5. 実践:戦略策定の4ステップ

「戦略が大事なのはわかったが、どこから手をつければいいのか」という経営者のために、思考を整理する手順を提示します。

ステップ①:資産の棚卸し(何を持っているか)

自社がこれまでに蓄積してきた「信頼」「技術」「顧客リスト」「立地」などをすべて書き出します。特に、「お客様からなぜか感謝されている、本業以外のサービス」にヒントが隠れていることが多いです。

ステップ②:戦場の定義(どこで戦い、誰を捨てるか)

「全方位」をやめます。地域、客層、価格帯、あるいは解決する悩みの種類。どこなら勝てるかを決め、同時に「ここから先の顧客は追わない」という境界線を引きます。

ステップ③:トレードオフの決定(何をあきらめるか)

これが最も苦しいプロセスです。低価格を維持するために手厚い接客を捨てるのか、あるいは付加価値を高めるためにスピードを捨てるのか。「AもBも」ではなく、「AのためにBを捨てる」という決断を下します。

ステップ④:独自性の検証(競合が真似したくないか)

策定した戦略を眺め、「競合他社がこれを真似しようとしたとき、彼らにとって不都合や損害が出るか」を考えます。競合が「効率が悪すぎて、うちの社風ではとても真似できない」と苦笑いするような内容であれば、それは優れた戦略です。


経営者への問い

あなたの会社のデスクに、現在の事業リストを並べてみてください。そして、自分にこう問いかけてみてください。

「あなたの会社が提供している価値のうち、競合が『あんな面倒なことはやりたくない』と避けて通っているものは何ですか?」

「もし、明日からリソースが半分になるとしたら、どの顧客を真っ先に捨て、どの顧客を守り抜きますか?」

その「面倒なこと」の裏側に、あなただけの黄金の領土が眠っています。戦略とは、残ったものに魂を注ぎ込むための「断捨離」なのです。


次回予告

戦略という「進むべき方角」が決まったら、次はその道をどう歩むかです。どれほど鋭い戦略も、現場が動けなければただの空論に過ぎません。

第2部では、戦略を具体的な成果に変えるための現場の力、【戦術編】「点」を「線」につなげる実行力をお届けします。

ではでは、Enjoy your life.

関連動画:https://youtu.be/HeSW7-OMFm4

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